高校2年生の優子。一緒に暮らしているのは森宮さんという20歳(だったかな)年上の男性。血のつながりはないが現在のお父さんである。物語はココからはじまる。
優子は幾度となく名字が変わっている。最初は水戸、田中、泉ヶ原ときて森宮。高校の担任の先生も、明るく振舞ってはいるが悩みがあるのだろう?と優子のことを心配している。しかし、当の本人は悩みがないか聞かれること自体に困っているくらい、悩みがなく現在の生活に満足している。彼女は強い。
例えば、仲の良い友達とちょっとした異性に関するすれ違いで、友達はおろかクラスから無視されるようなことになっても、辛くはあるけれど時間が経てばどうにかなる、と信じて疑わずいつも通りの自分でいられる。友達を、そしてクラスのみんなを恨むようなことはしない。彼女は強くてとてもいい娘。
彼女の過去も小学校2年生の頃から語られる。もっと以前に彼女は母親を亡くしていた。新しい母親。その人は夫に連れ子が居たことに感謝している。なんたって出産ってヤツは「スイカを鼻の孔から出しながら、腰を金づちで殴られるくらい苦しい」と聞いていたから。この表現、秀逸。
しかし父親は海外出張のためブラジルへ。それが原因で離婚。母親と2人暮らし。貧しくも楽しい日々。
小学6年生のとき、友達が習っていたピアノが弾きたいと、何気なく母親に漏らしたところ、なんと彼女はピアノが弾ける大きな家を持つ年上のおっさんと結婚。防音設備のある部屋に、手入れの行き届いたワイン色のグランドピアノ。お手伝いさんのいる生活。
しかし母親は贅沢だけれど退屈な生活がイヤになり、家を出て行ってしまう。といいつつ毎日夕方だけ家に帰ってくる母親。そんな生活が1年も続き、いつのまにやら2人は離婚もしていたという。
そして母親はとうとう家にも帰らなくなり、ある日突然、旦那となる男を連れて現れる。それが冒頭の森宮さんだ。そして再婚してすぐ、母親はまた姿を消す。
とこんな説明じゃ訳ワカメですよね、ココまでの物語で全体の3/4を超えるくらい。ここでやっとこさ2章に入り、短大を出て就職していた優子が結婚というハナシになる。
実はですね、この小説、映画化されてまして、文庫本の表紙も思い切り映画のソレ。永野芽郁、田中圭、石原さとみの写真がバンバンと。気になって予告編を見ちゃったんですよ。そしたらなんかどんでん返しみたい?のがあって、謎が最後に解けるみたいなことナレーションしてるわけです。
だからどこからハナシの展開が急変するか楽しみに読んでいたのですが、前述したとおり、長い長い1章も終わってしまって、主人公の結婚という終盤にただただ入っていくという、肩透かし。え?、えええ?。と思っていたんですが、どうやらその謎とやらは2番目の母親の失踪ってことらしいです。わたしゃ単に飽きっぽい彼女が、地味な暮らしに飽きて出て行っただけだと理解しておりました。
で、お題の回収なんですが、最後に森宮さんという父親と暮らしてきて、今度は自分が結婚する立場になってみて、やっと気づくんです。わたしの父や母になってくれた人たちがどれほど自分を愛してくれていたかは理解できていました。でも、その人たちもそれぞれどれだけの覚悟をもって自分の家族になってくれていたのか。やさしさに包まれてばかりな自分は、もっと彼らの気持ちを考えるべきだったと。
家族が変わってしまう。その現実に優子は心を破壊されないよう、傷つかないよう自然と心を防御していたのでした。彼女は決して強い娘ではなかったのです。悲しいですね、もう号泣モノでした。
というわけで、いつになく書きすぎて余計に訳がわからなくなってしまいました。オーラスでバトンの意味もしっかりと味わえます。いいおハナシでした。感動です。号泣です。おすすめ、です。あ、ちなみにこの本も本屋大賞を取っています。